下河辺:最後に国会議員としてのお立場から、競馬界や私ども馬主に対して、望むことなどあれば、お聞かせいただきたいのですが。
橋本:競馬は、健全な経営、持続可能な経営をするのは当然のことなのですが、そのために、競馬が存在する価値、競馬が日本社会にどう貢献していくべきなのかを競馬サークル全体で考える機会を、もっと増やしていったらいいのかなと思います。それがまた、議連が目指しているところでもあります。
これまでは、厳しい目先の状況に追われて、ビジョンまで手が回らないところがあったと思うんです。
もちろん、競馬を取り巻く環境は、まだ、厳しい状況ではあるのですが、それをどう解決するのかと同時に、なぜ競馬をやるのか、なぜ日本に競馬があるのかを考えていかないといけない。
私は、競馬というのは世界最高のエンターテイメントだと思うんです。単にギャンブルということではなくて、夢とか感動とかというと当たり前の言葉になってしまいますが、まさに「教育」になると思うのですね。これからは、「どうやったら競馬場に来てもらえるか、馬と触れあってもらえるか。」といった、底辺を拡大するための政策を考える必要があると思うのです。
競馬のことを知らない人でも、例えば、日本ダービーに招待して、競馬場で馬とレースを実際に観てもらうと、一発でファンになってくれますね。
下河辺:はい、そうですね。
橋本:純粋に馬の走る姿は美しいですし、騎手との人馬一体の姿や、その馬が走っている背景まで知ることになれば、馬の姿が自分自身の生き方にフィードバックされて感じるところが大きいと思うんです。それが教育にもなると思うんです。
下河辺:ええ。
橋本:あるいは、馬産地や競馬場を持っている地域であれば、競馬があることでどういう産業が成り立っているか、それによってどんな福祉事業ができているか、競馬が自分たちの生活にどう関わっているか、を教えるべきだと思います。
それに、馬にしかできないこともあるんです。例えば、ホースセラピーは私もよくやらせていただいていますが、障がい者の方や特に自閉症児には、目に見える効果があるんです。それは、医療関係者も認めています。
ところが、これがなかなか有効に機能しないのは、競馬は農林水産省で、教育は文部科学省、ホースセラピーなら厚生労働省だ、ということになってしまうんです。
下河辺:ああ、そうですね。
橋本:省庁の垣根を越えてやっていくことができれば、新しいトータルな健康産業と観光産業を作り出し、それが地域の活性化にもつながって、ひいては社会における競馬の価値を上げることになると思うんです。そうなれば、競馬はギャンブルを超えた存在になれるだろうし、競馬自体や携わる人のレベルも上がるのではないかと感じています。
下河辺:馬や競馬場は、競馬をやっている人だけの財産ではないんですよね。国の財産です。私たちは、せっかく素晴らしいものを持っているのだから、それを国全体のレベルアップのために有効に使いたいですね。
橋本:欲を言えば、というかこれは私の夢なのですが、馬産地や競馬場のある場所の小学校には、1校に1頭、馬がいればいいなと思うんです。子どもたちが馬と触れあう機会ができるだけでなくて、例えば、お仕事を引退した方が馬の世話をお手伝いしてくれれば、子どもたちと地域の人との交流にもなりますし。
下河辺:それは素晴らしいですね。
橋本:これからも、馬にまつわる大きな視点で、日本の競馬はどうあるべきかを考えていける議連でありたいと思っています。
下河辺:私どもも日本の競馬がよりよいものになるよう頑張りますので、今後ともお力添えをいただければと思います。
今日は長い時間、ありがとうございました。
※このインタビューは平成28年5月に行ったものです。
橋本 聖子氏 プロフィール
橋本 聖子(はしもと せいこ)
1964年10月5日 北海道勇払郡早来町(現安平町)生まれ。スピードスケート、自転車競技の選手として冬季、夏季併せて7度オリンピックに出場し1992年アルベールビル冬季オリンピックではスピードスケート女子1500mで銅メダルを獲得。1995年参議院議員選挙に自由民主党から立候補(比例区)し初当選、2013年には4期目の当選を果たす。実父はマルゼンスキーの生産者である橋本善吉氏。
○現在の主な役職
・自由民主党2020年オリンピック・パラリンピック東京大会 実施本部長
・東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 理事
・(公財)日本オリンピック委員会 常務理事・選手強化部長
・(公財)日本スケート連盟 会長
・(公財)日本自転車競技連盟 会長
・自由民主党競馬推進議員連盟 会長