―調教師とのコミュニケーションなどで気をつけていることはありますか?
里見:私はローテーションなど、調教師にあまり注文をつける方ではないんです。訊かれれば好みや意見は言いますけどね。というのは、調教師と馬主は利益が相反していないですから。おかしなことをするはずがないというのが前提にあるんです。となれば、毎日馬を見ている調教師や厩務員、調教助手の意見に素人の私が反対する気持ちは起きません。
―任せたのは自分なのだから、ということですね。
里見:そうです。会社の仕事にしても、投資にしても、基本的に私はずっとそうです。例えば証券会社の営業が強く勧めてきた銘柄を買って大損しても、文句は言いません。最後に判断したのは自分ですから。いい加減な仕事をして失敗した相手は、それは怒りますけど、一生懸命やって失敗しても怒ったりはしません。馬も一緒です。
―これから馬主になろうという方にアドバイスをするとしたら?
里見:自分の力の範囲で楽しむこと、それがいちばん大事だと思います。楽しみは、額や頭数じゃありません。無理をして、楽しみのはずが苦しみに変わっちゃうことだけはよくないと思います。
―ご自身の今後の目標、いちばん勝ちたいレ―スは?
里見:日本では、やっぱりダービーです。馬にとって一生に一回しかチャンスがないですからね、憧れます。だからサトノダイヤモンドが負けたのは、本当に残念でした。
―あとはやっぱり凱旋門賞ですか。
里見:サトノダイヤモンドは、この後も大きなレースをいくつも勝てる可能性がありますし、全部期待しています。凱旋門賞はもちろん憧れていますが、池江泰寿調教師はもっと勝ちたいでしょうから、何も言わなくても大丈夫でしょう(笑)。
―気の早い話ですが、サトノダイヤモンドは将来は種牡馬としても期待されます。
里見:本当に楽しみです。じつは私は、もし自分の馬を種牡馬にするならば、少しでもみなさんに種付けしてもらえる、人気のある種牡馬になれる可能性がある馬だけを、というスタンスなんです。なんでもかんでもという気持ちはなくて。サトノダイヤモンドは今のところ十分にそういう資格のありそうな馬なので、ぜひ今後もさらに活躍してほしいですね。
インタビュー後記
インタビュー前、日本馬主協会連合会の社会貢献・広報委員長を務めておられる下河辺俊行さんから、里見さんとお付き合いのある方もない方も、誰もが里見さんのGI勝ちを待ち望んでいたんですよ、というお話を聞いていましたが、実際にお会いしてみてその言葉がとてもよく理解できました。ご本業が遊技機、ゲームソフト等のメーカーで、いわば「楽しむ」ことに関してのプロである里見さん。お話からも、周囲の方々とともに競馬を、馬主活動を心から楽しんでいらっしゃることが伝わってきました。
聞き手:軍土門隼夫
※このインタビューは平成28年10月に行ったものです、文中の競走馬の成績はインタビュー時のものです。
里見 治氏 プロフィール
里見 治(さとみ はじめ)
1942年1月16日生まれ。セガサミーホールディングス株式会社代表取締役会長兼社長。1990年に馬主資格を取得。現在は「サトノ」の冠名を使用。主な所有馬にサトノダイヤモンド、サトノクラウン、サトノノブレスなど。