―馬主の楽しみや、逆に悩みには、どんなものがあるんでしょうか?
下河辺:自分の馬が種牡馬や繁殖牝馬になって、その子供が走ったりするのは、馬主の楽しみの究極の形だと思います。逆に悩みは、みなさんそうだと思いますが、所有馬の取捨選択の難しさでしょうね。
―たくさん持っている中からどの馬を残すのかということですね。
下河辺:そうです。ここで最後に大事になってくるのは勘です。馬主になるような方は、みなさん仕事で成功されている方です。そういう方の判断力が最後はものを言うんだなと、これは見ていて思います。だから現役馬のローテーションなんかでも、馬主さんは遠慮せず、どんどん調教師さんに自分の考えを言った方がいいと思います。それは当然の権利ですし、言った方が絶対に楽しいですから。
―遠慮される方が多いですか、やっぱり。
下河辺:ほとんどの方がそうですよ。わからない世界ですからね。でも積極的に口を出される馬主さんの馬は、結果的によく走っているように感じます。
―下河辺さんもけっこう言われる方ですか?
下河辺:いや、僕は言わない方です。でも最近の若い調教師さんはローテーションひとつとっても、次はこうしようと思うんですが、と向こうから言ってきてくれるようになってきました。それはすごく助かるし、いいことだと思っています。
―昔は、もっと「おまかせ」だった。
下河辺:そうです。でも、今はいろんな情報をネットで早く、しかも全部見られるようになってきたでしょう。馬主さんに隠し事ができない。調教師さんにはたいへんな時代だと思いますよ(笑)。
―でもどんどんそうなれば、初めての人でも馬主の世界に入りやすくなりますよね。
下河辺:間違いないです。実際、昔に比べれば競馬の世界は確実に明るく、オープンになったと思います。それでもやっぱり、人との信頼関係が大事という部分は変わりませんけどね。馬主というのは、例えば1000万円の馬を買っても、それを自分の手元に置いておけるわけではないでしょう?
―確かにそうです。
下河辺:時計でも車でも、普通は大金を出して手に入れたものほど自分の近くに置いておきたいものです。でも馬はそれができない。牧場でたまに顔を撫でるくらいです。では、この方は1000万円出して何を買ったのか。それは人との付き合い、信頼関係なんです。これから馬主になる方にも、牧場や厩舎や騎手、そういった関係者を信頼して付き合っていくことに楽しみを見い出してほしいなと思います。